深い思考を促す教科横断の問い(総合)
都市計画
「答が一つではない問い」の典型例は,都市計画でしょう。12月に表紙に掲載した「サッカースタジアム」の建設候補地についての問いです。
サンフレッチェ広島FCが2015年のJ1年間チャンピオンとなったことで,新スタジアム建設への関心は一段と高まりました。
現在のスタジアムは広島市広域公園陸上競技場(広島ビッグアーチ,エディオンスタジアム広島)です。
移転候補地のうち最終的に残ったのが旧広島市民球場跡地と広島みなと公園です。
地図のA地点は広島県庁,B地点は広島市役所,C地点はJR広島駅です。
2つの建設候補地には,それぞれメリットとデメリットがあります。つまりどちらを選んでも,100点満点にはなりませんし,将来的に100点になる可能性もありません。したがって,いつまでも決めないことが最大の問題点とも言えます。
過去の経験から学ぶ
広島の戦後の都市計画の中で,大きな移転を伴ったものの例が広島大学の統合移転と広島空港の移転です。どちらも移転後の長年にわたって「広島市の中枢性にとってマイナスをもたらした都市計画の失敗」という批判がありました。しかし,では移転しなかったほうがよかったのか,と問われれば,そうだとは言いがたいでしょう。たとえ都市の中心部にあるとしても,狭すぎるキャンパスの大学,短すぎる滑走路の空港は現代社会のニーズを満たせません。また,実際に移転した候補地についてはさまざまなこと(例えば,誰それの影響力によってここに決まった,等)が語られることがありますが,それらは実は,移転しなかったほうの候補地についても同様に存在していたはずです。したがって,「移転しなかった候補地はなぜ選ばれなかったのか」を探るのも大いに意味があることです。(明治時代に全国に鉄道が敷設されていった際に「地元が反対したために線路が遠回りして駅が作られずその後の街の衰退を招いた」という説明が各地に見られましたが,それらはあとづけの説明であり,実際には土木技術や戦略上の合理的な理由で線路は敷かれた,ということが現代では明らかにされています。)
広島大学移転関連地図
大きな赤丸が現在の広島大学本部。小さな赤丸が元の広島大学本部。黒丸が他の移転候補地だった広島市可部町と佐伯郡五日市町。
広島空港移転関連地図
大きな赤丸が現在の広島空港。小さな赤丸が旧広島空港。黒丸がもう一つの移転候補地だった竹原市洞山地区。