深い思考を促す地理の問い

ケッペンの気候区分

問1  下の地図で黒く示した地域はCs気候の地域である。Cs気候が存在する理由を説明しなさい。(Cレベル)
Cs気候(地中海性気候)の分布図
考え方
 Csのsは,夏乾燥を意味するドイツ語(Sommertrocken)から来ています。夏は気温が高いので,上昇気流が生じやすく,本来は雨が降りやすいはずです。1月と7月を比較すると,7月には中緯度高圧帯の位置が北半球側の高緯度側に移動します。アフリカでいうと,サハラ砂漠あたりの乾燥帯をつくっている高圧帯が,地中海地方に北上して,夏の乾燥をもたらします。同時に赤道低圧帯も北上するので,赤道付近からやや北側のサバナ気候の地域に雨をもたらし雨季となります。
 sの判定は,夏の最少雨月の降水量が冬の最多雨月の降水量の3分の1未満かどうかで行い,冬が夏の3倍以上であればsと判定します。最少雨月降水量が30mm未満であることも条件です。これは,夏にある程度雨が降っていて乾燥とはいえないのに冬に極端に多く雪が降るために夏の3倍以上の降水量となる場合をsから除くための基準です。(これはケッペンより後に加えられた基準で,もしもこの条件がないならば,例えば日本の上越高田などはCsということになってしまいます。)
 冬季少雨はw(Wintertrocken)で表しますが,こちらは,夏が冬の10倍以上あるものをwと判定します。気温の上がる夏はもともと雨が降りやすいが,気温が高いので蒸発もしやすい。いっぽう冬は気温が低いので蒸発が少ない。そこで,蒸発の影響を考えると夏に降水量が少ないのは冬に少ないのよりも降水の少なさの影響が大きいことになるので,3倍,10倍という基準は異なっていても,降水の少なさの影響の度合いの点でいうと,これでちょうどよいくらいの基準となります。夏に降った雨のうち,地面や空気を湿らす量を,権田雅幸氏は実効雨量と呼んでいます。
 なぜ冬多雨でなく夏乾燥,夏多雨でなく冬乾燥として表示するかというと,植生や農業への影響は多雨よりも乾燥によるものがより大きいので,乾燥する季節を表示するのが実用的だからです。

問2  通常は高校の教科書には載っていないDs気候が存在する地域がある。それはどのような場所か考えなさい。(都市名をたずねているのではない。)(Eレベル)
考え方
Ds気候が存在するかどうかとか,どこに存在するかというのは,大きな問題ではありません。「Ds気候というのはない」というのが普通の理解でいいのです。「Ds気候というのも実はある」というのはあくまでトリビアであって,それを知っているからといって地理の実力があるということにはなりません。それよりも,「存在するとしたら,どのような条件の場所か」を緯度や標高や隔海度から考えることが,ケッペンの気候区分の本質理解につながるので,よほど意味があります。「Cs気候に隣接する地域で標高の高いところではないか」という予想を引き出したいところです。

※ハイサーグラフや気候表から気候区分を判定させるIレベルの問題を練習したうえで,上記の問いを投げかけるといいでしょう。判定基準を精密に適用しようとして,AsとかDsという記号を書いてしまう生徒が時々います。では,応用問題としてこれも問いかけてみましょう。

問3  As気候はなぜ存在しないか考えなさい。(Cレベル)