深い思考を促す地理の問い

鉄道と郵便の関係を考察させます。自分の趣味の領域は基礎知識が豊富なので細かく問いたくなりますが,そのことに詳しくない人でも考える気にさせる(考える意味があると思わせる)問いであることが重要です。
画像
問題例 留意点
郵便車スユ44
図1

クモユ83
図2

EF58が牽く荷物列車(広島駅)
図3
Iレベル
・ 図1の〒マークは何を表しますか。

Cレベル
・図2の車両には,窓に〒マークが付けられています。この車両の車内では運転中に何が行われているか推測しなさい。

Eレベル
・ 図3は,図1の鉄道車両が連結された列車(荷物列車)を写したものですが,このような列車は現在は運行されていません。なぜ運行されなくなったのでしょうか。また,このような列車が担っていた輸送業務は現在どのように行われていて,それが人々の生活にどのように影響していますか。
1はかつて使われていた郵便車スユ44です。鉄道の客車の重さを表す記号は,軽いほうから順に「コホナオスマカ」と付けられていて,かつてはナユという記号の車両がありました。それが後にオユと変わります。つまり重くなったわけですが,これは車両に冷房装置をつけたためです。冷房を付けるということは車内に人が乗り込み走行中に郵便物の仕分け作業をしていたことを意味します。
 客車なら機関車に引かれて非電化区間にも入れます。ローカル線では「キハユニ」,電車区間では「クモユニ」や「クモユ」もありました。図3は「クモユ」の車両で,側面上部の横に長い窓は,室内で仕分け作業をするための明り取りの窓です。 
  現在これらの車両がなくなったのは,郵便輸送が鉄道からトラックに切り替えられたためです。全国の多くの地域に郵便や荷物が翌日か翌々日に届く体制は,高速道路や航空路の整備によるものです。しかしそれはまた,トラック運転手の無理な勤務にもつながっていることも意識させたいものです。
1985年の広島中央郵便局(現在の広島東郵便局)
図4
Iレベル
・図4は1985年に撮影した広島中央郵便局の写真です。 この場所はどこですか。

Cレベル
・ この場所に広島中央郵便局が置かれていた理由を考察しなさい。

Eレベル
・ 現在では鉄道による郵便輸送は行われていません。今後,鉄道と郵便の関係はどのようになるか予測しなさい。
日本における郵便と鉄道は,ほぼ同じ時期にスタートしました。郵便が1871年,鉄道が1872年です。またかつては長距離を短時間で結ぶ輸送手段は鉄道に限られていましたので,郵便輸送も鉄道で行われました。東京中央郵便局と東京駅の間に,郵便物を輸送する地下鉄道が敷設されていたことも有名です。
 郵便物が鉄道で長距離輸送されるのであれば,大都市の中心駅のそばにその都市を代表する郵便局があるのは理にかなうことでした。広島中央郵便局も広島駅の下りホームのそばにありました。現在の中央郵便局は広島駅から離れた中区国泰寺町にあり,こちらは国道2号線に近い立地です。他の大都市では,東京中央郵便局や大阪中央郵便局など,現在でもJR駅のそばにある郵便局もあります。駅のそばにあっても郵便輸送は現在は鉄道では行われていないので,好立地を生かした商業ビル(KITTE)となっているものもあります。写真の広島中央郵便局も,現在は広島東郵便局と名前を変えて同じ場所にあり,1階の一角はコンビニエンスストアになっています。