11月6日(土曜日) 曇り。
1週間のアイルランド滞在を終えて,イギリスに戻る日がきました。ダブリンの空港を10時28分に離陸,10時58分にはマンチェスターの空港に着きました。アイルランドとイギリスの間は国内線と同じ扱いですし,距離も250キロ程度のものです。
タクシーでブラックプールに戻り,喫茶店で昼食をとったのち,みんなそれぞれのホストファミリーに引き取られていきました。私はアイルランドに行く前からの約束で,地理のエヴァンス先生の車で湖水地方に行き,マクドゥーガル先生たちと合流して美術専攻の生徒の野外活動につきあうことになっています。
ほかのメンバーが次々に去って少し不安になっているころ,エヴァンス先生が車でやって来ました。同じ地理のジョーンズ先生をアパートでひろいます。アパートと言っても日本とはかなり違っていました。庭の中を通って玄関を通り,一階が3部屋,二階にも部屋がある,日本式に言うとテラスハウスでしょうか。イギリスでは30歳前でもこういう家を買うのは普通のことだそうですから,彼女も賃貸ではなく持ち家かも知れません。日本の家をウサギ小屋と言う気持ちがわかります。
モーターウェイを快調に走り,ホークスヘッドのユースホステルに着きました。このあたりはピーターラビットを描いたベアトリックス・ポターの住んでいたところで,その美術館もあります。
ユースホステルは山のロッジという感じの古い建物でした。どう見ても50年以上はたっているでしょう。二階の奥の8人部屋で,二段ベッドが4つ置いてあります。天井が高く,ベッドの上段でも立って着替えができるほどです。
宿泊棟とは別にCLASSROOM 1という新しい建物があり,中はアトリエのようになっていました。生徒たちが水彩画を描いています。水彩絵の具も使われていますが,私は水をつけると絵の具のようにぼかせるWATER
COLOURを使わせてもらいました。絵心のない私ですが,あとでマクドゥーガル先生(アラン)が水をつけてくれて,まるで別の絵のように立派になりました。その絵は帰国後は部屋に飾ってあります。
夕食のあと,夜9時過ぎからパブに行こうと誘われたのですが,風邪気味なので横になっていました。コンタクトレンズをはずそうと思ってめがねを探すと,ないのです。コンタクトレンズのケースもありません。どう考えても,ダブリンのホテルに忘れてきたようです。一階のラウンジでレポートの採点をしていたアランに相談すると,ダブリンのホテルに電話してくれました。
すでにJTBが集めて持って行ったということでした。彼が言うには,「もしJTBが有能ならロンドンに荷物が行っているだろうから自分の家に送り返してもらえばいいけど,有能すぎて日本に送ってしまっていたら困ったことになるなぁ」ですと。
結局私のめがねとコンタクトケースはダブリンのガイドさんが預かってくれていて,1週間ほどでアランの家に届きました。その時はアランの家の近くのめがね屋でコンタクトのケースを買ったあとでしたが,このユースホステルの夜はそれもないので,フィルムのケースのふたに水を入れて,レンズを一晩入れて寝ました。たまにやりますが,いつも取り出すのに苦労します。
11月7日(日曜日) 曇り。
朝食のあと,トレーシーとエヴァンズの2人の地理の先生は山歩きに出かけてしまいました。私たちは生徒とミニバスに乗って山間の村に行きました。このミニバスというのは10人乗りくらいの小型のマイクロバスで,イギリスの学校にはよくあるようです。11月の半ばにはモーターウェイでハイスクールのミニバスが追突事故を起こし,生徒が亡くなるという大事故が起こり,連日大きく報道されました。
生徒たちは風景のスケッチをしています。私はカメラを持って山に登ることにしました。このあたりの風景は日本の山村とよく似ています。山にはさまれた谷あいを道路が通り,山の上の方は霧でおおわれています。ただ,山の傾斜が緩いのと,田んぼがないのが日本と違います。
男子生徒が2人ほど岩山のような所に上がってスケッチをしていると,アランが追いかけて登ってきました。どなってすぐに降ろそうなどとはせず,生徒が降りてくるのをじっと待っています。「生徒の安全は何より大切だ。これはウィークエンドではなく,学校の活動なのだから」と語る彼は,本当に「先生」という感じでした。
駐車場で昼食を取ったあと,一騒動。なんと,ミニバスの中にキーを入れたままドアをロックしてしまったのです。日本ならJAFの出番ですが,イギリスではAA(Automobile Association)がそれにあたるそうです。電話すると15分か20分くらいで黄色い車がきて,ボンネットを開けてそこから手をいれ,あっという間にドアが開きました。車って簡単に盗めるんだなぁと思いました。
モーターウェイでカーカムのカーヒルハイスクールに寄ってからアランの家で簡単に夕食をとり(時間がなかったのでピザといんげん豆とパンでした。私はイギリスの食事は人が言うほどはおいしくないとは思いませんが,この時の食事はまずかったです),ブラックプールのシアターに行きました。Tallis Scholarsのコンサートを聴くためです。W.Byrdの曲が中心で,男性は5人(その中に日本人のような人が一人いて,音とりをしていました),女性は3−5人に変化しましたが,左端の赤いドレスのソプラノはとくに素敵でした。
このコンサートでは,カーヒルの先生たちが5−6人来ていました。最初にホームステイさせていただいたオリバー夫妻もいます。特にクラシック音楽が好きという人たちではありません。日本なら,こういうコンサートを聴くのはクラシックのファンに限られるでしょう。音楽を,というより音楽を含めた生活を「楽しんでいる」という感じがして,とてもうらやましい気がしました。