3.金融と財政

(2)財政

a.財政の役割

 財政とは,国や地方公共団体の経済活動のことである。政府や地方公共団体は,租税や公債発行によって資金を調達し,公共的な目的のために支出している。財政の目的は,市場メカニズムで解決できない問題を補うことである。

財政の規模
 資本主義の初期の段階,つまり経済が自由放任であった時代には,財政の規模や役割は小さかった。第2次世界大戦後,財政の役割は著しく拡大した。例えば日本の国民所得は1994年に372兆円程度だった。このときの一般会計歳出は75兆円程度だった(現在は80兆円程度)ので,国民所得の約5分の1の規模があることになる。地方公共団体の分を加えるとさらに規模は大きくなり,国民所得の約3分の1にもなる。福祉の充実しているスウェーデンなどは,50%を超えている。

財政がなかったら・・・
 景気変動が激しくなり,倒産・失業が増大する。
 病気や貧困は自分の責任で解決しなければならない。
 道路はすべて有料道路になる。
 金がないものは教育を受けられない。

財政の機能
 財政の機能は,次の3つに要約される。

(1)景気の安定
 有効需要を調節することにより,景気の過熱や冷え込みをおさえる。好況期と不況期それぞれ,次のような組み合わせとなる。

好況期 不況期
租税 増税 減税
公共事業 減らす 増やす

 このように意図的に行われる財政政策を伸縮的財政政策(補整的財政政策,別名フィスカル=ポリシー)ともいう。

 累進課税制度や社会保障のしくみをつくっておくことにより,経済を自動的に「ある程度」安定させる働きがある。これを景気の自動安定装置(ビルト=イン=スタビライザー)という。その働きは下表の通りである。

好況期 不況期
税収 累進課税により税収増 所得減により税収減
社会保障給付 給付減 給付増

 累進課税とは,所得が高くなるほど税率が高くなる方式をいう。現在では,課税所得が0円から330万円までの部分は所得税率10%,330万円を超えて900万円までの部分は所得税率20%などとなっている。最高税率は50%である。なお社会保障給付の中心はこの場合は雇用保険や生活保護給付である。

(2)公共財の供給(資源配分の調整)
 市場メカニズムだけでは十分に供給されない財やサービスを赤字覚悟で提供することも財政の機能の一つである。例えば,教育,医療,水道,港湾整備などがそうだ。これらは,民間だけに任せておくと,儲かる分野にはどんどん投資が進むが,もうからない分野は取り残され,人口や経済発展が地域によりアンバランスになるおそれがある。そこで,財政の役割が期待される。
 公共財の供給については,財政投融資計画の役割が大きい。これは,一般会計とは別の資金によって住宅や道路などの公的事業に財政援助をする(たとえば低金利で融資するなど)ものである資金源は郵便貯金・厚生年金・簡易保険などである。財政投融資の規模は一般会計の60%もあり,「第2の予算」ともよばれる。

(3)所得の再分配
 現在の所得税率は下表の通りである。なお,税率は課税所得に対するものであることに注意する。課税所得とは,総収入から経費や各種の所得控除をおこなったあとの金額である。経費とは,商店の仕入れにかかった金額や,プロ野球選手が使うバット代などがそれである。所得控除とは,扶養家族がいる人や住宅を取得した人に対するものなどがある。なお誰でも38万円の基礎控除があり,給与所得控除としては最低65万円が認められている。従って,年収103万円の会社員・パート労働者なら,基礎控除38万円と給与所得控除65万円があるので,課税所得は0円になり,所得税はかからない。
 「減税」というと,多くの人は喜ぶが,実は,減税でたくさん税金が返ってくるのはもともとたくさん所得税を払っている人(従ってたくさん所得がある人)なのである。年収103万円以下のパート労働者はもともと所得税を払ってないので,所得税減税の恩恵はない。また,累進課税といっても,もともと所得の多い人は高い税率で所得税を支払ってもまだ多くの金が手元に残っている。(実際は所得税だけでなく住民税にも関係してくるが)。だから,政府が「所得税減税します」と言ったときには,実際は大金持ちのほうにより大きな恩恵があるのに,大して所得税を払っていない多くの一般人がテレビのニュースなどで喜んでいたりするのを見ると,なんだかおかしく感じることがある。

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