現在の日本では,株式会社の最低資本金は1000万円,有限会社なら300万円である。これは最低額であるから,資本金何千億円という株式会社も存在する。このような巨額の資金を調達するために株式会社制度が発達したのである。
株式会社の出資額は通常1口50000円である。資本金が1000万円とすると,これを1口50000円の合計200口(200株)に分割する。その出資者が株主であり,会社の所有者である。世間一般では従業員のことを社員というが,商法上は社員といえば株主のことである。株式会社が発達したのは,次のようなさまざまな利点があるからだ。
株式会社の利点
(ア)出資額が少額で済む
(イ)株主が経営に参加できる
(ウ)会社が利益を上げれば株主は配当金を受け取れる。
(エ)会社が倒産しても出資範囲内の責任をとればよい(有限責任)
(オ)株式は自由に譲渡できる。とくに公開された株式は株式市場で取り引きされ,一般の商品と同様に価格(株価)がつき,その価格は変動する。
建前上は,株主は会社の経営に対して発言でき,会社の最高意思決定機関は株主総会である。ただし,株主総会の議決は,「持ち株数が多い人の意見が通る(一人1票でなく一株1票)」という特徴を持っている。では持ち株数が多い株主はどんな株主だろうか。
株式会社は日本に100数十万社あるが,ほとんどは小規模な会社である。こういう小さな株式会社では,資本金は経営者自身やその一族が出していることがほとんどだ。言い換えると,1000万円程度の資本なら,個人でも出せないことはないということだ。つまり「出資者=経営者」であり「同族経営」などと呼ばれる形態である。少し大きな株式会社では,大手企業の系列として親会社がかなりの株を持っている場合もある。さらに大きな会社になると,より広く資金を集めるために株式を公開する。公開された株式は,だれでも売買でき,株主になれる。もっともこういう大きな株式会社では,発行された株式が数百万株あるのが普通である。
そのため,わずか(たとえば数百万株のうちの1000株)しか株を持たない株主(それは人数としては大多数であるが)は,経営に参加せず(参加できず),経済的利益(配当金や株価の値上がり)のみを追求するようになった。そして経営は専門家に任せるようになった。その経営の専門家(経営陣)を取締役といい,経営方針の決定は,株主総会から取締役会に委託する形がとられる。これが「資本と経営の分離」と呼ばれる状態で,現代の株式会社の大きな特徴である。
さて,供給者と需要者がともに多数存在する場合は完全市場(完全競争市場)が成立する。完全競争とは,「供給者・需要者のいずれも,価格を決定する絶対的な力を持てない」状態である。だが現代では,完全競争市場が成立することの方がまれである。
特に,需要者は多数だが供給者は少数という状態が多く見られる。この状態では,少数の企業が強い市場支配力を持つ。この状態を寡占(かせん)という。いくつか(せいぜい5〜10)の企業(したがって大企業)だけがその商品を生産しているという状態である。「生産集中度が高い」とも言う。日本ではビール・板ガラス・写真フィルムなどが典型である。寡占状態にない商品を探す方が難しいくらいだ。
寡占市場の問題点をビールの例で見てみる。
寡占市場で起こりがちな管理価格やカルテルは消費者の利益を損なう恐れがある。そのため,独占禁止法や公正取引委員会によって規制・監視されている。
企業が巨大化するのは,利潤の拡大や経営の安定のためである。そのため企業が巨大化すると,単に自社の資本が大きくなるだけでなく,次のようなことが起きる。
(ア)法人株主の増加
(イ)株式持ち合い・企業集団形成
(ウ)多国籍企業化
利潤を最大化することが企業の究極の目的であるが,それをあからさまに表に出すことはあまりない。以下の3つの場合は,消費者に「得した」と思わせつつ企業側もより大きな利潤を確保している例である。
(1)ガソリンスタンドに「洗車だけでもお気軽に」と書いてある。いかにも「洗車だけでは儲からないけど,それでもいいよ」と言ってるみたいだ。しかし本当は,ガソリンこそいくら売れてもほとんど儲からない商品で,洗車のほうが儲かるのである。
(2)ハンバーガー店で「お得な○○セット」と書いてある。原価率は,ハンバーガーが30%(130円のハンバーガーの原価が約40円ということ),ドリンクやポテトは20%以下なので,ハンバーガーだけ売るよりポテトとドリンクを一緒に買ってくれるセットの方が店は儲かるのである。
(3)携帯電話会社が写真や動画を送れる携帯電話を盛んに宣伝している。「こんなの使うとイロイロ楽しいよ〜」とアピールしているが,文字だけのメールよりもパケットサイズの大きい画像をどんどん送ってくれれば,通信量が増大して売り上げが増えるのである。
(ここが問われる)
法人株主の増加・企業集団の特徴
持株会社解禁の理由
寡占市場の特徴・非価格競争の例
許されるカルテルと許されないカルテル
公正取引委員会の性格
多国籍企業の現状