英国の学校教育−−1993年・秋

(19)小さな小学校

 11月9日(火曜日) 雨。
 アランの車で彼の家を出ましたが,今日の行き先はカーヒルハイスクールではありません。以前に彼から「いろんな学校を見たいか」と聞かれ,「はい」と答えると彼が知り合いのいる学校に連絡してくれて,小学校や障害児学校に行けることになったのです。

 まず今日と明日はWrea GreenにあるRibby with Wrea schoolに行きます。あとでお礼状を送るためにイエローページで詳しい住所を調べるとRibby With Wrea Endowed C.E Schoolという名称で載っていました。C.Eはチャーチ・オブ・イングランド,つまり英国国教会立の学校ということです。長いので,リビー小学校と書くことにします。 

 リビー小学校にはプライマリー(小学校)とインファント(幼稚園)があります。先生は4人で全員が女性。先生が4人ということは,2学年を一つにした複式学級ということになります。しかも4人のうち2人がベイジンフルーで休んでいて,大変な状態でした。
 玄関を入った左側の小さな部屋(8畳くらいでしょうか)が職員室で,ソファーとテーブルが真ん中にあり,周囲は棚や流し台になっています。職員室というより,事務室の感じです。Deputy Head(副校長)のマーベ先生にあいさつしましたが,ここにいた2日間で校長先生という人には会いませんでしたので,あるいはここは分校のような存在で,Deputyが責任者なのかも知れません。
 そのマーベ先生が5−6歳のクラスの面倒を見ていました。品のいいおばあちゃんという感じの先生です。こんな小さい学校ですから,私でもちょうどいい応援になるかも知れません。(実際,人手が一人増えたという感じで歓迎してもらいました) 

 9時から10時まではまず着替え。どの学年も制服があります。5歳くらいの子どもがネクタイを締めているとまるでお人形さんのようですが,作業や運動をするときは着替えます。
 そのあとはBonfireの作業(台紙に切り絵と色塗りをしていく)の続きです。このボンファイヤーというのは花火のことです。アランもオリバー夫妻もビデオに撮るくらい大好きな(ということは平均的英国人がよく見るということでしょうか)ドラマで「コロネーション・ストリート」というのがありますが,そのドラマでも時代劇に出てくるようなかがり火の上で人形を火あぶりにしながら花火をしていました。
 このドラマは,町内の雑貨屋や床屋やスーパーマーケットが舞台になって他愛のない話が毎週登場する,まぁサザエさんみたいな番組です。30年も続いているそうですが。
 ところで日本で花火といえば夏のものですよね。ところが英国では11月の5日に花火をするのです。この時期には学校でもよく花火の題材が取り上げられています。なぜこの日に花火をやるかについては,ちゃんと理由があります。17世紀に国会議事堂を爆破しようという陰謀があり,未然に発覚したのですが,その首謀者ガイ・フォークスがつかまったのが11月5日だからだそうです。子どもの作品にも,ガイ・フォークスが火あぶりになっているのがありました。
 作業が終わると,10時から10時30分までホールでボール運動です。ホールといっても,日本の学校の教室2つ分くらいの広さでしょうか。ボールはスポンジボールなので当たっても痛くはありません。そのあと10時30分から12時まで「BONFIRE NIGHT」の作文を子どもたちがワープロで清書するのを手伝いました。PCは教室の入り口にNIMBUSが1台置いてあります。

 昼食のあと13時から15時までは一番年少のクラス(4−5歳)に行きました。この年齢は小学校というよりは幼稚園で,やったことといえばレゴで自動車を作ったのとプラスチック粘土細工です。一人の子にダイナサウルス(英国でも日本でもすごい人気でしたね)を作ってやったところ,次から次へやってきてたくさん作る羽目になり,さすがに手が痛くなりました。作り方は簡単で,両端を細く中央を太くした粘土をバナナのように曲げ,頭と脚の部分をつまめば出来上がりです。たくさん作っていると,自分でも満足できるのと今一つのとありますが,子どもは結構喜んでくれました。ダイナサウルスだと思って見るからそう見えるのでしょうか。何だか,自分が忘れたものを見せられたような気がします。 

 午後のブレイクの時,学校を回って交通安全教育をしているという男性が職員室に来ていました。「今日は男性が2人もいるわ」とマーベ先生は笑っていましたが,この男性によると,英国では交通事故の死者が年間2000人くらいだそうです。日本がおよそ1万人ですから,人口が半分であるのを考えても少ない数字でしょう。もしかしたら,イングランドだけの数字かも知れません。
 英国では少々のアルコールを飲んで車を運転しても違反にならないと何人かの先生から聞いていました。実際,カーヒルで演劇の公演があった夜は,近くのパブで遅くまで飲んで車で帰ったものです。しかしこの男性に尋ねると,確かにビール2パイント(約1.2リットル)までなら飲んで運転してもいいが,交通安全のために飲まないように呼びかけているということでした。

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