2.市場と国民所得

(2)国民所得

b.国民所得の三面等価

 国民所得は,生産・分配・支出の3つの面からとらえられる。また,どの面からとらえても,合計額は等しくなる。次の例で考えるとわかるだろう。

わが家の稼ぎは私30万円+妻25万円=55万円(生産国民所得に相当)
使うのは 私10万円+妻40万円+息子5万円=55万円(分配国民所得に相当)
使いみちは 家賃10万円+食費10万円+光熱通信費5万円+本代10万円+衣料品5万円+交際費5万円+交通費5万円+貯金5万円=55万円(支出国民所得に相当)


(ア)生産国民所得
 国民所得がどの産業からどれくらい生み出されているかを見たもの。第3次産業の生産額が最も多くしかも増え続けているのが特徴である。カッコ内の割合は年により変動するので,大まかな傾向と思っておけばよい。

第1次産業所得(2%)+第2次産業所得(33%)+第3次産業所得(68%)

(第1次産業)農林水産業。割合は非常に小さくなっている。
(第2次産業)建設業・鉱工業。1970年は44%,1980年は38%だった。
(第3次産業)サービス業・商業。1970年は55%,1980年は64%だった。
 以上のように,所得の割合は第1次産業よりも第2次産業が,さらには第3次産業が高くなってきている。これを産業構造の高度化という。なお就業人口の割合で見ると,第1次5%,第2次33%,第3次62%程度である。農業が儲からない,ということがわかる。

 産業構造の高度化とは
 生産額および労働力人口の割合を見ると,経済発展につれて第1次産業中心から第2次・第3次産業中心に移行していくことを産業構造の高度化という。また,第2次産業の中でも軽工業中心から重化学工業へ比重が移っていくこともこのようにいう。このことを,ペティの法則とかクラークの法則,またはペティ=クラークの法則ともいう。どれも意味することは同じである。
ウィリアム=ペティという17世紀のイギリス人が「農業よりも工業の方が利益が大きく,商業の方がさらに利益が大きい」と説いた。20世紀になって,やはりイギリスの経済学者コーリン=クラークが経済成長にともない第1次産業が減少し第2次・第3次産業が増大することを統計的に実証したので,二人の名前を合わせてこのようにいうのである。ペティが名前でクラークが名字,というわけではない。

(イ)分配国民所得
 国民所得がどのように分けられているかを見たもの。労働者への賃金支払い割合がかなり大きくなっているのが特徴である。

雇用者所得(73%)+財産所得(5%)+企業所得(22%)

(雇用者所得)労働者に対する賃金。1970年は53%,1980年は69%だった。
(財産所得)利子・配当金・地代など。1970年は8%,1980年は10%だった。
(企業所得)企業の利潤。1970年は39%,1980年は23%だった。

(ウ)支出国民所得
 消費と投資の割合を見たもの。民間最終消費支出が最も大きい(約60%)のが特徴。

支出国民所得=消費支出(民間60%+政府10%)+投資支出(民間20%+政府10%)

(消費支出)最終的な支出。家庭で使う電気製品や自動車など。民間は1970年には52%,1980年には59%だった。 政府は1970年には7%,1980年には10%だった。
(投資支出) 国内総資本形成ともいう。住宅,企業設備などへの支出のこと。民間は1970年には28%,1980年には22%だった。政府は1970年には8%,1980年には10%だった。
c.GDP指標

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