2.市場と国民所得

(1)企業と市場

d.市場の失敗

 市場機構が十分働かないことを市場の失敗(または市場の欠陥,あるいは市場の限界)といい,次の(ア)〜(エ)の場合がある。市場の失敗を解決するために政府が経済に介入することになる。自由放任だけでは限界があるから政府の役割を増大させるわけで,民間とともに政府が大きな役割を持つ現代の資本主義を,混合経済ともいう。

(ア)完全競争市場が成立してない
(イ)市場外への影響(外部不経済)
(ウ)収益性のない公共財
(エ)規模の経済


(ア)完全競争市場が成立してない とは
 寡占市場で需要と供給の関係によって価格が変化しないような場合。たとえばある企業が商品を独占的に供給している場合,大量生産によって生産費が下がっても価格は下がらない。(下方硬直性)

(イ)市場外への影響 とは
 例えばパン屋の場合,原料の小麦が値上がりしてパンが値上がりしたためにパンを買う人が減って売り上げが減ったとすると,これは市場内部の要因である。しかしパン業界以外の条件の変化によってパン市場に影響が及ぶことがある。これが市場外への影響である。
 市場外への影響には,好影響と悪影響がある。好影響の例としては,店の前に新しい駅ができたおかげで店の客が増え売り上げが増えたという場合がある。これを外部経済という。逆に悪影響の例としては,自動車の排気ガスにより大気が汚染されるのに,排気ガスをきれいにする費用を車の価格に上乗せしないような場合がある。この時,汚れた大気で健康を損なう人が出ても,その費用(医療費など)は自動車メーカーや車の利用者だけが負担するわけでなく,税負担などの形で社会全体が負担することになる。これを外部不経済という。外部不経済の代表例は公害である。この場合,排気ガスをきれいにする装置を車につける(そのために車の価格は上がる)ようにすれば,その価格上昇分は車の利用者という自動車市場の内部で負担するわけだから,これを「外部不経済の内部化」という。

(ウ)収益性のない公共財 とは
 市場機構が働くことは確かに大きいが,市場機構がすべてだと言ってしまうと,いろいろと問題も出てくる。例えば「赤字の施設は作らなくてよい」「赤字ローカル線は全部廃止した方がよい」「人口が少ない地域は暮らしにくくても仕方ない」と言い切れるか? 資本主義的な豊かさを十分享受している都市部では「こんな田舎に立派な道路なんか造って税金の無駄遣いだ」などと考えがちだが,「赤字でも必要なものもある」のも確かだ。
 「利用者が少ない施設は廃止しろ」という自由競争重視の人でも,会社で「おまえは無能だから長く働いていても給料は上げてやらない」と言われたらムッとして「長く働いている人の給料が高いのは当たり前」という社会主義経済的なことを言うかもネ。

(エ)規模の経済 とは
 (ア)と似ているが,産業によっては巨額の設備投資が必要な場合がある。例えば電力や通信などがそうで,NTTや電力会社の企業規模・市場占有率を見ると,新電電や電力小売り新規参入はきわめて難しいことがわかる。NTTはかつて電電公社として全国の通信を独占していたし,発電所などは小さいものをあちこちにつくるより,巨大発電所から何百kmも送電した方が効率がよい。このように,規模が大きいことにより利益が大きくなる産業が政府によって独占を保障されていることがある。こういう場合の料金を公共料金といい,政府の許認可が必要である。 

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